H15新春大会奮闘記…有段者戦で優勝しましたある人からの依頼により「青森将棋界」のHPから転載しました。図面は省略。解説は、田村純也四段です。○1月7日(火) 新春将棋大会① ~本田四段優勝までの軌跡その1~ 既報のとおり、1月3日に行われた新春将棋大会の有段Aで青森市の本田伸四段が優勝しました。早速本田さんが当ホームページに優勝記を投稿してくれ、トップページに掲載になっています。新春将棋大会レポート第2弾は本田四段優勝までの軌跡として、準決勝で飯田巧五段を破った将棋から優勝記と重複しないところを紹介していきます。 飯田さんとの対戦とくれば四間飛車になるのはいうまでもありませんが、問題はどんな作戦で臨むかというところです。本田さんは「これしかない」という棒銀にでました。 (第1図) ▲9八香▽6五歩▲3八飛▽4二角▲3六飛▽3五歩▲同銀▽3四歩 (第2図) ▲9八香はおそらく研究手でしょう。これは、飯田さんが▽4二角とか▽5一角と引いたとき、▲4五歩▽同歩▲1一角成という有効な攻めがあります。そこで▽3三角とか▽4四角とぶつけられても、9九の香があらかじめ逃げているので堂々と▲2一馬と桂を取れるという狙いです。 従来からある定跡は▽5一角▲3八飛▽6二角▲3四歩▽同銀▲4五歩▽4三金という展開ですが、飯田さんは▽6五歩でした。これは久保利明七段が対棒銀でよく用いている手法です。角を4二から6四と転換して軽くさばいてしまおうというものです。 ここまでは教科書どおりの手順。これからが本田-飯田戦です。▲3六飛は私も始めて見ました。この手の意味をうまく説明できません。次に▲3七桂と跳ねようというものでしょうか。 先日、飯田さんと電話でこの将棋の話をしたのですが、飯田さんは▲3六飛を見てこの将棋一回目のパニックに陥ったとのことでした(読み筋にない意味不明な手を指されたからとのこと)。でも気を取り直して▽3五歩▲同銀▽3四歩。ここで▲4四銀は▽同銀▲同角▽3五銀で飛車角両取りとなってまずいというのが直感です。なのでここは▲2六銀と引くのが普通の感覚です。 ところが、ノータイムで指された次の一手に飯田さんは2回目のパニックを起こしたのでした。 その一手とは何か、あさって付けの当欄で紹介します。それまで考えてみてください。 ○1月9日(木) 新春将棋大会② ~本田四段優勝までの軌跡その2~ 一昨日の当コーナーで宿題としていた上の局面で本田さんが指した次の一手、考えてみましたか? ▲3三歩▽同飛▲4四銀▽同銀▲同角▽3五銀▲3三角成▽同角▲3九飛 (第3図) ▲3三歩という手は四間飛車の将棋ではよく出る手筋ですが、よくあるのは角が2二に引いている形で発生するのが多いです。それゆえ、角が4二にいるときにこの手筋は利かないというのが高段者の先入観です。飯田さんは▽同飛と取って4四で交換した銀を3五に打ち、両取りをかけました。これで十分という読みでした。しかし▲3九飛と引いた局面は棒銀がさばけ、▽9九角成は一昨日紹介したとおり、▲9八香の効果でカラ成りになってしまう。本田さんの言い分がすべて通った局面なのです。つまり居飛車やや良しの局面。 本譜を私なりに分析してみます。▲3三歩は好手というわけでもない気がします。問題は▽3五銀だったのではないかと考えています。次に示す手順なら飯田さんも十分指せていたのではないでしょうか。 ▽3五銀に代えて ▽6三飛▲1一角成▽3三桂▲2一馬▽2五桂▲5四馬▽9五歩 (変化図) ▽9五歩が▲9八香をとがめようという手です。馬を5四まで使われましたが、飛車角交換は飯田さんのほうとしても歓迎でしょう。歩が足りないので取られそうな桂を手順に2五まで使って、端を攻める。▲同歩なら▽9七歩▲同香▽9六歩▲同香▽8五銀。または▽9六歩では▽9八歩という攻めもありそうです。これなら3六の飛も立ち遅れてい る感じですのでよかったような気がします。 さて、本譜に戻って▲3九飛の局面は本田さんがリードしました。その数手後の局面は本田さん自身が優勝記ですでに述べているとおりで、さらにリードを広げていきました。 ところで、本田さんといえば詰将棋。つまり終盤の名手であります。次回は本局の終盤を元に寄せ方の勉強をしていきましょう。 ○1月10日(金) 新春将棋大会③ ~本田四段優勝への軌跡その3~ 今日は前回のつづきで新春将棋大会の本田伸四段と飯田巧五段の将棋の終盤戦を見ていきます。詰将棋作家は指し将棋では終盤の名手でもあります。流れるような手順で美濃囲いを切り崩していくテクニックを学んでください。 (74手目▽4七馬の局面) 図の局面、ここから本田さんは寄せに入ります。まずは急所の一手から。 ▲6四香▽5六歩▲5三歩 ▲6四香はだれでもこう打ちたくなるところ。▽5六歩に▲5三歩が参考になる手です。▲6一香成では▽同銀左と取られてはっきりしません。 (84手目▽5七飛の局面) 少し進んで▽5七飛と進んだ局面。金取りですが・・・。 ▲5二歩成▽7九金▲同玉▽5九飛成▲6九金▽5二竜▲5三歩 (91手目▲5三歩の局面) 構わず▲5二歩成。これが▲7一銀以下の詰めろ。したがって、飯田さんは▽同飛か本田玉を詰ますしかしかありません。といってもとても詰むような状態ではありません。▽7九金は竜をひきつけてがんばろうというものですが、再度▲5三歩が厳しい一着となりました。 明日もこの続きを見ていきます。 ○1月11日(土) 新春将棋大会④ ~本田四段優勝への軌跡その4~ 昨日は美濃囲いを崩していくテクニックを紹介していきました。そして、相手玉が見えてきました。いよいよ相手玉の詰みを含めて読んでいく段階に入ります。 (106手目▽7二金の局面) 図の局面は▽7二金と受けた局面です。ここで▲5一とのような手を考える人はいないと思います。ではどのようにして相手玉に食いついていくかですが・・・。 ▲7一金▽6一金▲同香成▽7一金 (110手目▽7一金の局面) 王手をせずにべたっと▲7一金と打つのがうまい手です。ついつい▲7一銀と王手をしてしまいたくなります。それでも勝ちかもしれませんが明快さに欠けます。先手玉はまだ余裕があるので▲7一金と詰めろを欠けておけば十分なのです。そして本譜▽7一金と進んだ局面。これも▲同成香と取りそうなものですが・・・。 ▲5二飛▽7二金打▲7一成香▽同玉▲6三銀 (115手目▲6三銀の局面) ▲5二飛で持ち駒と一枚強制的に使わせるのが、同時に飯田さんからの反撃の戦力を奪う攻防の一着です。そして▲6三銀までで後手玉に必死がかかり、まもなく飯田さんの投了となりました。 大会を通して本田さんの戦い方を見ると、手の善悪は別として迷いがなく、悩ましい局面でも気合良くビシビシ指していたのがよかったような気がします。これに相手も心理的にプレッシャーがかかり、思わぬミスを起こすこともあります。決勝の三津谷君との将棋も、優勝記にあるとおり最後即詰みはありませんでした。観戦していた私も飯田さんも気づいていましたが、なんとなく三津谷君が間違えそうな雰囲気がありました。そういう空気を作ったことも勝因といえるでしょう。 新春将棋大会 A級準決勝 2003年1月3日 デーリー東北ビル6階 持時間15分(30秒付) 先手:四段 本田 伸 後手:五段 飯田 巧 ▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽4四歩 ▲4八銀 ▽4二飛 ▲5六歩 ▽6二玉 ▲6八玉 ▽7二銀 ▲7八玉 ▽9四歩 ▲9六歩 ▽7一玉 ▲5八金右 ▽3二銀 ▲2五歩 ▽3三角 ▲6八銀 ▽5二金左 ▲5七銀左 ▽8二玉 ▲6八金上 ▽4三銀 ▲3六歩 ▽5四歩 ▲4六歩 ▽6四歩 ▲3七銀 ▽3二飛 ▲2六銀 ▽1二香 ▲3五歩 ▽1四歩 ▲9八香 ▽4二角 ▲3八飛 ▽6五歩 ▲3六飛 ▽3五歩 ▲同 銀 ▽3四歩 ▲3三歩 ▽同 飛 ▲4四銀 ▽同 銀 ▲同 角 ▽3五銀 ▲3三角成 ▽同 角 ▲3九飛 ▽2八角 ▲4九飛 ▽1九角成 ▲3一飛 ▽4八歩 ▲同 金 ▽4六銀 ▲7七銀 ▽4二香 ▲4六銀 ▽同 馬 ▲4七歩 ▽5六馬 ▲5九飛 ▽5五歩 ▲2一飛成 ▽4七香成 ▲6四桂 ▽6三銀打 ▲5二桂成 ▽同 銀 ▲4七金 ▽同 馬 ▲6四香 ▽5六歩 ▲5三歩 ▽5七歩成 ▲同 金 ▽4八馬 ▲5八金 ▽5九馬 ▲同 金 ▽5七飛 ▲5二歩成 ▽7九金 ▲同 玉 ▽5九飛成 ▲6九金 ▽5二龍 ▲5三歩 ▽5一龍 ▲同 龍 ▽同 金 ▲6二銀 ▽6一金打 ▲同 銀成 ▽同 銀 ▲5二歩成 ▽3八飛 ▲7八銀 ▽5七桂 ▲6一と ▽6九桂成 ▲8八玉 ▽7二金 ▲7一金 ▽6一金 ▲同 香成 ▽7一金 ▲5二飛 ▽7二金打 ▲7一成香 ▽同 玉 ▲6三銀 ▽6二香 ▲7二銀成 ▽同 玉 ▲6三金 ▽同 玉 ▲5三金 ▽6四玉 ▲5四金打 まで123手にて 先手勝ち |